『思考の整理学』
とあるまとめサイトのコメント欄で、「思考は寝かせるべきだ」といった内容のものがあった。30年以上も前に出版された『思考の整理学』で主張されている内容らしく、また、東大・京大で売れたベストセラー本らしいので、興味を持ち読んでみました。
1986年初版なのに、今も通用する普遍的な内容に驚いた、というのが率直な感想です。
例えば、将来AIによって仕事が失われる、といった事を最近よく耳にする。
本書でも、詰込み型の学習で知識を蓄えただけの学校型秀才(=グライダー人間)は、コンピューターの出現によって、立場を危うくしている、といった事が書かれている。
1986年初版の本でありながらも、筆者の先見性に驚くばかりでした。
本書では"思考を寝かせる"ことの大切さを一番に説いているが、グライダー人間と飛行機人間との対比が個人的には面白かった。
グライダーとは
本書では、グライダー人間と飛行機人間という表現が繰り返し出てくる。
本書で言うグライダー人間とは、自力で飛び上がる事ができない人間のことです。
反対に、飛行機人間とは、自力で飛び上がる事ができる人間のことです。
簡単にいうと、
グライダー人間は、人に指示されたことをやるのは得意だが、受け身なタイプ。
飛行機人間は、自分から積極的に学んだり、考えたり、創造するタイプです。
筆者は次のように言っています。
学校の生徒は、先生と教科書に引っ張られて勉強する。自学自習という言葉こそあるが、独力で知識を得るのではない。学校はグライダー人間の訓練所。飛行機人間は作らない。
つまり、受動的な学習をせざるを得ない学校教育では、受動的な人間(=グライダー)になりやすいということだ。
いわゆる成績のいい学生ほど、論文にてこずる。言われたことをするのは得意だが、自分で考えてテーマを持てと言われるのは苦手である。
これには、大いに納得です。
私は大学のゼミで先生に「君の回答は優等生だね」と言われたことがあります。当時は言葉通りに受け取っていたのだが、今思うと半分皮肉だったのだなと思います。教科書通りの回答で、自分の考えがあまりなかったので、『思考の整理学』でいうところの、グライダー人間だったわけです。そういう意味で、先生は「君はグライダー人間だね」と言っていたのかもしれない。
昔の道場や稽古の場合は、今とは違い、受動的になりやすい学習を積極的な学習に変えることに成功していたそうだ。
秘術は秘す。いくら愛弟子にでも隠そうとする。弟子のほうでは教えてもらうことは諦めて、なんとか師匠の持てるものを盗みとろうと考える。ここが昔の教育の狙いである。
要するに、弟子は積極的に学ばないと術を習得できないのだ。
師匠の教えようとしないものを奪い取ろうと心掛けた門人は、いつの間にか、自分で新しい知識、情報を習得する力をもつようになっている。いつしかグライダーを卒業して、飛行機人間になって免許皆伝を受ける。
それに比べると、今の教育は、教える側が積極的でありすぎるそうだ。親切が過ぎて、生徒たちは受け身でも知識が得られる。これが問題なのだと筆者は言う。
学校が熱心になればなるほど、また知識を与えるのに有能であればあるほど、学習者を受け身にする。本当の教育は失敗するという皮肉なことになる。
まとめ
本書では「グライダー人間は、コンピューターに勝てない」とはっきり断言されています。
そして、この本が出版されてから30年たった今も、私たちは同じ問題を抱えています。
コンピューターがAIに変わっただけで、「自ら考え、創造しない人間は、AIに仕事を奪われるかもしれない」という問題です。
筆者は創造について、「無から有を生み出すのではなく、既存の知識を自分なりに組み合わせて新しい物を作ること」だと述べています。
とにかく今は、いろんな知識を吸収して、組み合わせるための知識素材を集めようと思いました。